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22章 〈 23時55分 アルファ号 〉

「今回は、さすがにまいったぁぁ」
 一面の大きなモニター、その下のグラデーションで様々な色に変化するコンピューターパネル、室内の壁際に設えられたソファ。
 ユウたちがアルファ号の操縦室でと呼んでいる広い室内のソファにうつ伏せに寝転がりながらユウは叫んだ。
 部屋の中央では、お菓子と飲み物を広げて、ラグやルアシたちが、ミニ・パーティを始めたばかりだ。
 アルファ号は今、太陽圏外、月軌道上にあった。
 モニターには青く美しい地球が映し出されている。
「ボクはね、楽しかったよ」
 サミーが本当に楽しそうに手を高く上げる。
「でも、電波ジャックだろ。日本中大騒ぎだ」
「電波ジャック……」
 ジュースを口元に運んでいたアミーは、何かを思い出したように怪訝な表情を浮べた。
「そういえば、リーダーさっきの話だけど。全チャンネル・全国中継って、言ってたわよね」
「ああ、シーダがフェニックステレビ一局の独占放送はまずいって言うんで、ロンにまかせて、やってもらったんだよ。下界のことはもう知るか」
 アミーの表情が、硬くなる。
「僕もさ、あとから聞いてちょっと気になってたんだけど……。アミーも?」
 ラグが顔を引きつらせてアミーを見た。
 嫌な予感をアミーが感じているのはその表情から明らかだった。
「電波ジャックぐらい、しかたねーじゃん」
 シーダとサミーが「なー」と言っていたずらっ子の笑みを浮べる。
「ロン! 全国中継の規模は?」
 緊張した面持ちのアミーがロンに呼びかける。
「ハイ。あみー。てれびガ放送サレテイル全域デス」
「………」
 全員の動きがピタリと止まった。
「全国中継だもんな」
 シーダが当たり前だろ、という顔をする。
「ハイ」
「それって、日本全国中継よね?」
「全国デスカラ日本モキチント含ンデイマス。大丈夫!」
 再び嫌な空気が全員の頭上に垂れこめる。
「まさか……地球上の全世界生中継という意味じゃないわよね」
「なに?」 と、寝ていたユウが、もぞりとソファから体を起こした。
「ハイ。ソンナ意味ジャナイデス」
「はぁぁぁ」と大きな安堵の息がそれぞれの口から漏れ出た。
 ロンの返事に全員の緊張が解かれる。
「良かった……私は、てっきり地球上のテレビ全局に生中継したかと……」
 アミーも思い過ごしでよかった……と安心した表情でジュースに手を伸ばす。
 だが、ロンの言葉はまだ途中だっだ。
「月ト、火星ト、てれびノアル場所ト、CLN(コズミック・ライン・ニュース)ニハ、漏レナク中継シマシタ。全域トイウノハ、ソウイウコトデス。地球ダケデハ不平等デスカラ。ソウソウ、医療関係ノ手術関係ナド命に関ワル作業ニ従事シテイルてれびもにたーは除外シテアリマス。ソレハ常識デスカラネ。アクマデ一般家庭ヤ娯楽テレビヘハ怠リナク中継シマシタ」
「……………」
 水滴でも響きそうなほどの沈黙が室内を満たした。
 やがて、アミーが笑いだした。
「ふっ……電波ジャックどころじゃなくなったわね」
「日本だけでも大騒ぎなのに、地球と、月と火星のテレビやネットにまで生放送ジャック、ってか?」
 シーダが引きつった笑いを浮べる。
「明日は世界中で大騒ぎね」
 ユウはその声にふたたびソファに倒れこみ頭を沈めた。
「きっと誰にも原因がわからないから、大丈夫だよ。ロン以外は誰もそんなこと出来ないもん」
 サミーが妙に納得させるような口ぶりで言うと、隣のライラに親指を立てて自慢げに笑った後、「内緒ね」とささやく。
「それより、ケーキはまだなの? ルアシ! ケーキ」
 手を上げて要求するサミーにルアシも呆れ顔になる。
「世界中が、大騒ぎなのよ」
 言いながら、外に出て行くとしばらくして両手にフルーツが大盛りになった手作りケーキを抱えて登場した。
 ユウも起き上がってきて、輪の中に入り、ラグの肩をパシリと叩く。
「え?」
「せーの」
 ユウの声に全員が続く
「十八歳の誕生日。ラグ、おめでとう!」
 隠し持っていたクラッカーが景気のいい音をたてて鳴り響き、色とりどりの紙吹雪がラグの頭上に降り注ぐ。
「あ、ありがとう」
 すっかり忘れていたが、今日は誕生日だったのだ。
 それも、あとわずかで終ってしまうけれど。
「ありがとう」
 ラグは幸せな気持ちに満たされて笑顔を浮べた。

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