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26章 〈 エピソード4 〉

 アイドルグループ『シンクロ』の人気が急上昇し始めていた。
 ケイリー・デイジーの母親との再会場面のとき、サワキ首相にマイクを渡しに飛び込んだミズキの姿がほんの一瞬画面に映ったことがファンの間で話題になり、やがてフェニックス・テレビの危機を、正体を隠してまでサポートしたと噂が流れはじめたのも大きかった。
 さらにその当日に同じ事務所のバッド・ボーイズのトップスターであるショウ・ストライズが、ケイリー・デイジーの件でドタキャンした某タレントの変わりに、代役として登板したことが一気に話題を呼んだのだ。
 話題が話題を呼び、ドラマの視聴率は飛躍的に伸びた。
 また、ドタキャンした事務所が局側からヒンシュクを買ったことで、それまで圧力がかかっていた『シンクロ』のタブーは薄れて、フェニックス・テレビのバラエティに顔を出す機会が増え、他局からも声がかかるという相乗効果が現れ始めていた。
「でも、俺はあきらめないからな」
 ミズキはハルトに向って宣言した。
「あいつに喰らいついてでも写真を撮ってもらう。だって、ケイリー・デイジーの母親の写真、心に焼き付いて消えそうにないんだ」
 その言葉に別の意味で、ハルトは目に焼き付いて離れないモノを思い出す。
 あのスタジオで、ルアシと、アミーに見つかった時の恐怖を。
「ラグを売ったら、抹殺するわよ」
 アミーからおひさしぶりと微笑みながら、静かに囁かれた声が耳朶から離れない。
 あの時は逃げたけれど、次を想像するのはさらに恐怖だった。
 そのミズキの宣言をクスクスと笑いながらドアの外で聞いている人物がいた。
 ケイト・ブロワード。
 バッド・ボーイズの会長職を務める女性は、心の中で「せいぜい頑張りなさい」と微笑んでいた。

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