4 | ||
ココは若者の話を聞いて、舞踏会に出ることを決めました。 美しい若者を一人占めしている自分の心がみにくいような気がしたのです。 顔も腕も、肌はみにくいやけどのあとで覆われていても、心までみにくくなってはいけないと初めて気がついたのです。 それに、自分が長く生きられないこともわかっていました。 だから、最後に自分が出来る精一杯のことをしようと決めたのです。 舞踏会に、ココが美しい若者を連れて現れると、一瞬にしてその場が光で包まれたように華やかになりました。 女性たちは頬を紅潮させて、椅子に座っているココに挨拶に駆け寄ってきます。 でも、目は若者に釘付けです。 みな、神のように、妖精のように輝く美貌の若者に心を奪われ、挨拶すらまともに出来ません。 王さまの恋人として公認されている何人もの女性までがココのところに現れて、膝を折って挨拶をします。 皮肉を言ったり愛想笑いをする余裕もないほど、若者の前では、まるで初恋の人に会うときのように、気恥ずかしそうに緊張をして声を震わせているのです。 ココは思わず微笑んでいました。 人が幸せそうだと、不思議とココも幸せな気持ちになっていました。 そのココに若者は手を差し出しました。 二人は一緒に大広間の中央で踊りました。 夢のようなひと時でした。 王さまさえ、驚いたように立ちつくして見ています。 ココは十年ぶりに王さまの顔を見ました。 王さまが自分を見ていてくれている。 今まで自分をさげすんでいた人々が、ため息を漏らしながら自分たちを見ている。 それが若者だけを見ているのだとしても、なんだか、それでもいいと思いました。 自然に笑みがこぼれて、ココは若者と視線を合わせて微笑みあいました。 とても幸せな気持ちで満たされていました。 「私のところに来てくれてありがとう。感謝しています」 ココは若者に優しく微笑みました。 舞踏会が終ったその夜、ココは若者に守護妖獣のコインのペンダントを手渡すと、そのまま静かに息を引き取ったのです。 幸せそうな微笑を浮べていました。 お葬式の時、集まった人々はココを見てあっと、息を呑みました。 棺の中には美しい女性が眠るように横たわっていたのです。 不思議なことに、王妃ココのみにくいやけどのあとは全身からすべて消えていました。 王さまは、亡くなったココの前にひざまずくと、その美しい顔を両手でそっと包み、涙を流しました。 「すまない。すまない」 その時から、王さまは亡くなった王妃に恋をしてしまったのです。 しかし十年間、王さまのお妃さまだった人はもうこの世にはいません。 あの美しい若者もまた、ココのお葬式のあとは、お城から姿を消してしまいました。 人々の心に残ったのは、舞踏会で幸せそうに踊るココの姿だけです。 そして不思議と、みにくいやけどのあとのことを思い出す人々はいなくなったのです。 おしまい |
||
戻る |