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ところが、ココの知らないところで、ココを暗殺しようとする悪巧みが進んでいました。 ココが王子さまに嫌われていると知った貴族の女性たちが、ココが死んでしまえば自分が王子さまと結婚できると考えたのです。 二年前に王さまが亡くなって、王子さまは王さまになり、ココは王妃さまになっていました。 ココがいなくなれば、王さまと結婚して王妃さまになれるのです。 そう考える女性たちを操って、お城での権力をひとり占めしようと狙っている公爵がいました。 けれど、ココには守護妖獣がいます。 毒殺をたくらんでも、暗殺者を送っても、事故を装っても、いろいろな方法で何度もココを殺そうとしますが、指一本触れることが出来ません。 そこで公爵は、恐ろしい力を持つある魔道士を探し出して内緒で城に招きました。 昔、アンナの一族にいたその魔道士は、一族から追放されたという噂がある人物でした。 公爵は、たくさんの金貨と引き換えに、ココから守護妖獣を取り上げるように魔道士に命じたのです。 魔道士はアンナの一族が絶対に使ってはいけないと禁じている魔道の方法をもちいて、ココの守護妖獣をゴーマの魔石に封じてしまいました。 ココは、突然いなくなった守護妖獣を探し回りました。 自分の心の半分が無くなってしまった様で、じっとしていることなど出来なかったのです。 悪巧みをしている女性たちと公爵から依頼を受けた暗殺者たちは、城内の園庭や林、泉を一人さまようココをつけねらいました。 そして、お城の塔に上って外を見下ろしているココに近づき、後ろからそっと背中を押して突き落としたのです。 ココは悲鳴を上げました。 その声を聞いた多くの見張りの兵士たちが、ココが塔から落ちる姿を見ました。 ところが、落ちているココの姿は、突如、空中で突然消えたのです。 お城からも姿を消してしまいました。 ――大切なココ。 守護妖獣の声が聞こえてきました。 ――私の体は捕らわれましたが、心は今もあなたとともにあります。 私の心は、魔石に封じられる瞬間に、あなたの胸元に揺れるペンダントのコインに移しました。 コインには私の心が宿っています。 ただし、あなたを守る私の力は長くは保てないでしょう。 コインの輝きが薄れるときは、力が失われていくときです。 力を保ち続けるには、多くの宝石に宿る力が必要です。 出来るだけ多くの宝石をコインに触れさせて下さい。 力ある限り私はあなたを守り続けるでしょう。 気がつくと、ココは美しい湖のそばのやわらかい草の上に横たわっていました。 「ここはどこ?」 見たこともない場所でした。 あたりは背の高い木々に囲まれていて、美しい湖が目の前にあります。 塔から落とされたのに、と不思議に思いましたが、気を失っている間に、守護妖獣の声を聞いたことを思い出して、胸元のコインのペンダントを見ました。 おじいさまから結婚のお祝いにいただいてから、ずっと身につけていたペンダントです。 じっと見ていると、湖の方から水音がしました。 見ると、湖の表面が揺れて、美しい裸の若者が現れ、ココのいるほうに向って歩いてきます。 黄金に輝く金色の髪と、深く碧い美しい瞳、整った顔立ちは人間とは思えないほど完璧な美しさを持っていて魅力的です。全身も彫刻のように均整がとれています。 まるで湖の精か、美の神が現れたようでした。 美しい若者はココに微笑みかけました。 しかし、ココは自分のみにくいやけどのあとを思い出して、立ち上がると、顔を手で隠したまま若者から逃げるように湖と反対側の森の中へと走り出しました。 しかし、長い間部屋の中に閉じこもっていたココの体はとても弱っていました。 少し走っても苦しくなってしまいます。 大きな木の陰に隠れるようにして、背もたれて休んでいると、あの美しい若者が目の前に現れました。驚いて逃げようとするココの腕をとると、彼女をそっと抱きしめたのです。 ココは心臓が止まりそうでした。 顔を上げると、若者の優しい眼差しが自分に注がれています。 彼は、ココの顔を見ても驚いた様子がありません。嫌な顔もしていません。 ただ、優しく見つめています。 ココはやがてその温かい腕の中で泣き出しました。 おじいさまが亡くなってから、ココは両親とも会えなくなり、誰にも優しくされたことがなかったのです。 きっと神様が守護妖獣のかわりにココに遣わしてくれたのだと思いました。 |
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