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12章 〈 18時20分 シーダ 〉

「ちーっす、ミヤマ現像・映像所です」
 写真が届いたと受け付けから知らせが入り、会議室に通すよう指示をして、自らも会議室に足を運んでいたクロサキは、そこに中学生が現れて目を丸くした。
「待ってたよ、シーダ」
「おひさ〜」
 ラグとルアシの顔を見たシーダは、右手の人差し指と中指を立てて額にあて挨拶をする。
 「ロビー奥の接客セットで寝ているリーダーを見たよ」と笑って言いながら、自分の左手首とケースをつなぐ鍵付ケーブルを暗証番号を打ち込んで解除してから、金属製の薄いアタッシュケースをラグに渡した。
 ラグは指紋認証キーでロックを外すと、中に入っている封筒を取りだし、束になった写真と現像処理されたフィルムとを一枚一枚真剣な眼差しで見始めた。
「君、まだ中学生だよな」
 生意気そうな態度で会議室の机の上に腰掛けた、そばかすがまだきれいに消えていないアメリカンボーイといった顔立ちのシーダを見て、クロサキが訊ねる。
「だよ」
 だから? というような、つきささるような生意気な視線に睨まれてどうしたものかと、言葉につまる。
「クロサキさん、歌の台本をください」
 ラグが写真から目を離さないまま、真剣な表情でクロサキから収録用の台本を受け取る。
 歌詞の、一節一行ごとに何番のカメラが撮るかが細かく記載されている台本だ。
 AパターンとBパターンがあらかじめ用意されていた。
 それを目で追いながら、写真を分けていく。
「今回は、Bパターンで行く予定だが……、ラグ君、君が写真チェックするの? ササヤマは……」
「ササヤマさんが来たら交代します。すべての写真はライアン王子のチェックを通ったと連絡がありました。歌詞に合わせて構成だけでも先にやります」
「き、君……事情を知ってるのか? いや、それより……」
 ライアン王子の名前を口にするラグに、驚き戸惑うクロサキに、シーダが出て行けとばかりに「あっち」とドアを親指で示す。
「ラグが撮った写真なんだから、いいんだよ。それよか、さっきトキタのおっさんも入ったよ。行かなくていいのか?」
 ラグが写真を撮ったと聞いてますますわけがわからなくなった状態でいたところに、今度はトキタの名を聞いて、クロサキの意識はスタジオに向けられた。
 体が動きドアノブをつかむ。
 待ちに待っていた美術監督のトキタが到着したのだ。
 彼がいなければ、舞台がセットできない。
「君、トキさんを知っているのか?」
 クロサキは混乱した頭で、ドアを開けながら、シーダを振り返る。
「いいじゃん。それよか、早く行けば?」
 促されて、クロサキは飛び出していった。

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