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   「 王 妃 コ コ 」
みにくい王妃さまの物語

1
 ラーサイル大陸には、たくさんの国があります。
 この物語もその中のひとつの国のお話です。

 ある国のある日、とある貴族のお屋敷に女の子が生まれました。
 女の子はココと名付けられました。
 ココが生まれたお家は、おじいさまのおじいさまが王さまだった由緒正しいお家です。
 おじいさまは、孫のココが生まれるとすぐに、時の王さまに会いに行きました。
 そして王さまの一番目の子供である、王子さまとココが大きくなったら結婚をするように命令をしたのです。
 王さまはココのおじいさまの命令には逆らえませんでした。
 自分を王さまになれるようにしてくれた怖くて立派で恩のある人だったからです。
 おじいさまと王さまは、ココが十四歳になったら結婚式をあげることを決めました。
 その時の王子さまの年齢は、十八歳でしたから、結婚する時王子さまは三十二歳になってしまいます。
 王子さまは「嫌です」と抵抗しましたが、ココと結婚しなければ、将来王さまになれないようにすると言われて、渋々了解したのです。

 ココが四歳のある日、いたずらをしているうちに、熱湯をかぶってしまう事故が起きてしまいます。
 全身大やけどをしまいました。
 みんなは助からないと思って嘆き悲しみました。
 しかし、おじいさまが大切にしていた家宝の宝石にお願いをすると、不思議なことに宝石の力でココは奇跡的に助かりました。
 お屋敷中のみんなはとても喜びました。
 けれど命は助かりましたが、ココの顔と体にはひどいやけどのあとが残りました。
 それでも、立派なお屋敷の中から一歩も外に出ないで育ったココは、おじいさまや家族、召使たちみんなに愛されて元気に成長しました。

 十四歳の誕生日を迎えた時、ココは約束どおり王子さまと結婚式を挙げました。
 結婚式までココと会わせてもらえなかった王子さまは、ココと会うのも初めてでした。
 毎年送られてくるココの肖像画はとても美しい少女でした。そのため、やけどのあとのことはまったく知りません。
 結婚式の時もココは花嫁の真っ白いベールに包まれていたので、なかなか顔を見ることが出来ませんでした。
 結婚式が終って二人きりになった時、王子さまは花嫁のベールを外したココの顔を初めて見て驚きました。
 顔が、みにくいやけどのあとでおおわれていたのです。顔だけでなく、つないでいたレースの手袋の下の手も、腕も、やけどのあとが広がっていました。
「化け物!」
 王子さまは悲鳴を上げると、その部屋からココを残したまま逃げ出してしまいました。
 ココは初めて受けたひどい仕打ちに驚きました。
 自分のお屋敷ではココを見て驚く人なんていなかったのです。

 ココの噂は瞬く間にお城中に広がりました。
 そして、ココの顔のやけどのあとを見て悲鳴を上げたり、嫌な顔をしたり、気持ち悪がる人々と出会うたびに、ココは深く傷つきました。
 やがていつもベールで顔を隠して、人前に出ることを止めてしまったのです。
 毎日泣いて悲しんでいるココの話を聞いたココのおじいさまは、王さまと王子さまに会いに行きました。そして、子供のときのやけどの話をして、ココは心の優しい子だから、仲良くしてほしいと話しました。
 それでもどんなに待っても王子さまはココに会いに来ることはありません。
 お城の大切な行事のときだけは、黙って隣に並ぶだけです。
 ココの手をとること、話しかけることもありません。
 その様子を知ったおじいさまは、自分との約束を守らない王子さまに大変激怒しました。
 真夜中にお城に行って、眠っている王さまと王子さまを呼びだして、きつく叱りました。
 しかし、その怒りが激しすぎて、大声で怒鳴っていたおじいさまは突然その場に倒れて、そのまま亡くなってしまったのです。
 ココはおじいさまの訃報を聞いて大変に驚き、嘆き悲しみました。
 どんな時でも自分を大切にして可愛がっていてくれたおじいさまが死んでしまったのです。
 一方、王子さまは怖い人がいなくなったので、内心ほっとしていました。
 当時は王家の離婚は許されていなかったので、ココを形だけのお妃さまとしておいて置くことに決めました。

 そして、お城から出ないように、人前には出ないように、と命令をしました。
 ココは重い病気になっているからと嘘を言って、大切な行事にも、大勢の人の前にも出られないようにしてしまったのです。
 やがて、お妃さまと会ったことがない人たちにまで、ココのみにくいやけどのあとの噂は広がり、みな「みにくいお妃さま」と影で悪口を言うようになりました。
 ココは召使以外の人と会うこともなく、一人ぼっちでした。
 そんな中でも、たったひとつだけココには嬉しいことがありました。
 王子さまと結婚した花嫁は、結婚式の時に王家の一員になった〈祝福の儀〉を受けて、守護妖獣を得られるのです。
 守護妖獣は、その国の王さまと指輪を与えられる資格をもった王家の人を守るために神々から与えられた守護者です。
 主人に付き従い、姿が見える時も、見えない時もいつもそばにいて主人を守ってくれます。
 大好きなおじいさまを亡くしたココにとって、守護妖獣がそばにいてくれるようになったことが唯一の嬉しい出来事でした。

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