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第十四章 《 守護を得る者 》


                      (イラスト・ゆきの)

 光のない闇の中、氷のように研ぎ澄まされた美しさをもつ青年は存在していた。
 やがて、闇の中に光の線が浮き上がり、青年の姿をかたどりはじめる。
 その線が冷たい光を帯びて輝き一枚の光の壁となる。
 青年はその姿から抜け出し、再び闇の中に身を置くと、光の中に映し出され情景をくすくすと笑いながら眺めていた。
 彼は、やがてある名を呼んだ。
「イルアド」
 美しい主に名を呼ばれた全身黒装束で身を覆った男が、少し距離をおいた闇の中に姿を現れた。
「上出来だよ」
 血のように紅い唇が笑みを形づくり、闇のように深みを帯びた美しい碧い瞳が怪しげに輝く。
「すべてはわたしの手の中にある。わたしはここにいるのに、いまだ誰もそのことに気づく者はいない」
 開かれていた白い指が闇の中で、そっとやわらかに握り締められていく。
 次にその指が開かれた手の平の中には、いくつもの指輪があった。
 色とりどりの光を放ち輝いている指輪は、リングだけのもの、石がはめ込まれているものなど形状は様々だった。
 だが、ただの指輪でないことは二人はよく知っている。
「おのれの目覚めを、おのれの力の増幅を、そして、おのれが得た者を。すべてを自分の力だとしか考えない浅はかで哀れな者たち。だが、それはいたしかたのないこと」
 青年の瞳が哀れむように、指輪を見つめ、再びその指が閉じられ、次に開いたときは指輪は消えていた。
 彼はその手から視線を離し、闇の中に視線をさまよわせる。
 そして、ふと光の壁の中に何かを見つけたのか、妖しくも楽しげな表情が口元に浮かびあがってくる。
「次は、あれに力を与えておこう」
 光の中には、フェリエス、グリトニル、そしてその他の王族の人物の顔が映し出され、彼はその中の二人を指差した。
「ですが……」
 イルアドの息を飲む声に、若者は優しさに満ちた瞳を注ぐ。
「より強く、より高みへ引き上げねば、面白くないだろう。己が力に酔いしれ、過信し、高みに上ればのぼるほど、すべてが幻と気づいた者の落ち行く姿、絶望の悲鳴は、魅力的だ。苦しみ、嘆き、もがく姿」
 恋焦がれるような甘いため息が唇からこぼれる。
「流れはすでに〈ユナセプラ〉に向かって突き進んでいる。この千載一遇の機会をわたしがどれほど待ち望んだことか。〈ユナセプラ〉の到来を知っている者のみが、すべてを制することができる」
 〈ユナセプラ〉と、その言葉を発するたびに彼は胸元に手を当て、瞼を閉じた。
「そして、わたしの手で美しい世界が生み出される」
 青年は夢見る者のように恍惚の表情を浮かべた。
「一人には私に近づく力を、そしてもう一人にはエボルの涙を」
「では……指輪を」
「面白いだろう」
 くすくすと笑いながら、青年は魅力的な声でイルアドにささやく。
「同じ世界の住人というのに、エボルは認めないから」
 わずかにその声に憂いが含まれる。
 しかし、ゆっくりと首を横に振ると、光の中に浮かび上がった次の顔を静かに見据えた。
「イルアド。あれには、まだ動いてもらわねばならない。力を与え、さらに畏怖されるべき存在に導く」
 見守るような眼差しがわずかによぎる。
「あれの力を極限まで高めてやろう。すべてを忘れ去った愚かな生き物に」
「御意」
 イルアドは主の示唆するところを悟り、その彫像のような美しい横顔に深々と身を屈した。

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