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第十一章《 邂  逅 》

「お前……」
「また会ったね」
 感情のない言葉で、口元にうっすらとほほ笑みをつくりながら応えたのは、まぎれもなくアルティナ城で出会った父カルザキア王を殺した少年――サトニ―だった。
 ルナの体中の血が一気に熱く上昇していく。
「どうして……あんなことをしたんだ!!」
 悲鳴にも似たルナの:激昂する叫び声に、ネイがビクリと震えた。
 怒気を含むただならない空気に、ネイの視線は自分の手を掴んだまま離さないサトニへと向けられる。
「…………」
 サトニは一瞬口を開きかけたが、そのまま唇を閉ざした。
 そして、忘れかけていたものを思い出したように、瞳に憎悪を浮かび上がらせた。
「ノストールの王家が、民殺しの一族だからだ」
 思いもかけない言葉に、ルナは困惑した。
 その言葉の意味するところがまったく理解出来ないものだったからだ。
「あいつらは村人を殺すのも、たくさんの子供を殺すことも、なんとも思っていないんだ。なにが、王家だ。シルク・トトゥ神だ。アル神だ。ただの人殺しと、それを指図してる奴らじゃないか」
 血の気のない顔が、憎悪の灯火を瞳に宿したまま、ルナにはなんのことかわからない言葉を吐き出す。
「何言ってるんだ。人殺しって……そんなのウソだ……」
「ウソ……? 信じられないっていうのか? じゃあ、見せてやるよ。どうせ、おまえも……すぐにあいつらの仲間入りだ……」
 サトニはすくっと立ち上がると、ネイの手首をつかんだまま、断崖絶壁の崖へ体を向けた。
「やめろ!」
 ルナは叫んで、掴んでいたネイの左手を引っ張る。
 ネイもルナとともに少年から逃げようとするのだが、サトニは子供の力とは思えない力でネイの手首をしめつけていた。
 逆らおうとしても、足がサトニの方に徐々に引きずられてしまう。
「ジーン!」
「ネイ!」
 渾身の力でネイを取り戻そうとひっぱるルナの耳元に、突然それは聞こえて来た。
――ククククク
「?!」
 ザワリと全身の毛が総毛立つ。
 ルナの体が凍りついた。
「ヴァルツが、真実を見せてくれるよ」
 サトニの抑揚のない声が、怒りと、悔しさで泣きそうな表情のルナに意味ありげな言葉を投げつける。
「おまえたちなんて……本当は、あのまま馬ごと崖から落ちて死んじゃえば良かったんだ。今だって……楽に死なせてやろうと思ったのに……そしたら、ただ死ぬだけで良かったんだ。あんなの……見ずにすんだのに……。逆らったおまえたちが悪いんだからな……」
 サトニの言葉とともに、ヴァルツと呼ばれるものの低い声が響き渡る。
――オ前ニ……マタ会エタ……。モウ……逃ガシハセヌ……。闇ノ中ニ行クガイイ……。ソコデオ前ハ……恐怖ニ震エ……ソノ心ヲ闇ニ染メルダロウ……。死ヨリモ大キナ闇ヲ見ナガラ……。さとにノヨウニ、我ガチカラヲ望メ……。オ前ガ望メバ……復讐ノチカラヲ……ソノ手ニ与エテヤロウ……
 まるで真後ろにいるように、ヴァルツの低い楽しげな声がルナの耳元でささやいた。
 そして、その声が終わると同時に、ルナの目に映る地面が地が大きく揺れ動いた。
「!!」
 周囲に見える山々の輪郭がダブリ、体の自由が奪われる。
 ルナは足をとられてネイとともに地面に倒れ込た。
 なにがあっても、この手だけは離さないとルナは自分に言い聞かせた。
「ジーン!」
 ルナとネイ、そしてサトニのいる大地が突然、崩れ出した。
――見ルガイイ。ソシテ……ソノ心ノ奥ニ潜ムオ前ノ闇ヲ、ワガ前ニ解キ放ツガイイ……。復讐ノ心ヲ解キ放ツガイイ……。
 ヴァルツの笑い声が、崩れる地面とともに崖下へ飲まれていくルナの耳元で、愉快そうに笑い続けた。
――見ルガイイ。闇ニ呑ミ込マレタ同胞タチノ姿ヲ……。

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