第十章《 神 の 怒 り 》
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エリルもその悲鳴を耳にしていた。
光の落ちた場所を追い求めて、道を外れ、吸い寄せられるようにエーツ・エマザー山にたどり着いた時、その悲鳴を聞いたのだ。
「子供の声?」
ナーラガージュの杖は、いま静かになっていた。
あれほど、警戒を発していた杖が、まるでただの棒になってしまったかのように、何の変化も示さない。
その静けさが逆にふと嫌なものを感じさせた。
別の意味での危険がその悲鳴のする場所にあるかもしれないと思えたのだ。
――指輪とは違うものなのか……?
だが、リア・アンナの一族はエリルが、ハリア公国の失われた《エボルの指輪》を捜し出せると告げた。
その言葉を信じたいと思った。
――危険を避けていたら、国を救うことなんて出来はしない。
エリルは山を見上げた。
そして、自らの意志で悲鳴の聞こえた方へと向かって歩きだして行った。
エーツ・エマザーの深い谷底へ続く崖のそばに、彼らは近づいていた。
ルナとネイが。
そして、エリルが。
はるか地底深く、陽の光さえ届かない暗黒の空間。
そこにサトニはいた。
目の前には、子供の倒れている姿が広がる。
一人、二人、三人……数えたならば、その数は数百近くにとなったに違いない。
それは、ルナ、そしてサトニと同じ年に誕生した、幼い生命たちの亡骸だった。
アウシュダール、そしてテセウスとともに、リンセンテートスへ向かうノストールの特別軍として、家族たちから笑顔で見送られて旅立ったノストールの少年たちの無残な姿だった。
第十章《神の怒り》(終)
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