《 第2章 ウイルド・コンパニー 》
惑星ソロボア空港に、ユウたち五人がついたのは、ちょうど昼を少しまわった頃だった。
「へぇー、ここがソロボアかぁ」
黒い髪と黒い瞳をもつ青年、ユウ・マサオカが、ロビーの窓から見える風景を眺めて、満足げにうなずいた。
窓の外では、大小さまざまな宇宙飛行艇が数十分間隔で入出港を繰り返している。
「地球にはないような、変わった美味い食い物がある惑星なんだろ? シーダ」
ユウの問いに、彼より六つ年下の少年が、そばかすのある童顔に小生意気そうな表情をたたえながら、澄まして答えた。
「もちろん。オレに感謝するだろー、リーダー」
「うん、する、する♪ シーダくん」
ユウをリーダー、と呼ぶライト・ブラウンの髪のシーダは、時折、光線の具合で緑がかって見える茶色の目を輝かせながら、自慢気に格納庫へ収容されて行く個人用小型宇宙船を見下ろした。
「アルファ号もいいけど、たまにはあーゆ、シンプルなものもわりといいだろ?」
シーダがシンプルな、と形容したその八十メートル級のシルバーカラーの宇宙船は、あっさりとした外見の流線形スタイルとは裏腹に、内部はぶっ飛ぶほどの超デラックス豪華版の旅客船仕様となっている。ユウたちが乗って来た宇宙船、通称・ベータ号だ。
「せめて…」
何を思ったか、ユウが深刻そうにふっと言葉を漏らす。
「ん?」
「メディアもつれてきたかったぁー!!」
ユウが胸の金鎖のペンダントを手のひらにのせ、『メディア』と女性名を口にした瞬間、シーダは思わずこけそうになった。
一方、そんなユウとシーダの背後で、先程からラグとルアシが、何やらにぎやかに押し問答を繰り返していた。
「あたしはいやよ、つまんないもん!」
「だって…まだわからないし…」
「あ! ラグ、あたしとじゃいやだって言うの?」
「別に……ただ早過ぎるって……」
「おまえら、こーゆところで騒ぐな」
見かねて止めに入ったユウを見て、可愛らしいほっぺたを膨らませたルアシが、ラグを指さし拗ねるような口調で言い訳をする。
「だって、リーダー。ラグってば、あたしとじゃいやだって言うんだもん」
「違うよリーダー、僕いやだなんて言ってない」
ラグが慌ててルアシの言葉をさえぎる。
「でも、わからないって!」
「だからそれは……」
「まて!」
ユウが両手を広げ再び、ふたりの間に割って入いる。
「ルアシ、なんでもめてるのか最初っから説明してくれないかい?」
できるだけ、できるだけ、穏やかにユウがたずねると、ルアシは人差し指を唇にあてながらうなずいた。
「ん、あのね、あたしがラグに『結婚したら地球以外の所へ旅行しようね』って言ったの。なのにラグったら…『まだ』だとか、『早い』とか言ってごまかすんだもん。きっとあたし以外に好きな子がいるのよ!」
ルアシは両手をぐっと握り締めて、胸の前であわせ、自分に言い聞かせるようにうなずく。
「ル…ルアシ」
ユウは、ぐてっという感じで頭を垂れた。何ということはない、いつもの痴話ゲンカだ、と自分に言いきかせる。
「リーダー……なんとか言ってよ」
困ったように助けを求めるラグの声に、ユウがつぶやいた。
「俺さぁ…」
「なあに? リーダー」
ルアシとラグが、ユウの顔を下からのぞき込む。
「さっきも言ってたんだけど…」
「うん」
ふたりの表情に緊張感がみなぎる。
「メディアもつれてきたかった…!!」
ユウが、再び『メディア』の名を叫ぶやくいやなや、ルアシたちは見事なほど、わざとらしく話を切り換えた。
「サミー遅いね」
「アミーも遅い」
「本当に遅いね、ルアシ」
「うん♪ ラグ」
ケンカを一時ストップをして、ラグがルアシにそっと耳打ちする。
「だめだよルアシ、リーダーにメディアさんを思い出させちゃ」
「うん。リーダーってば、普段明るいぶん落ち込んじゃうとなぐさめるのに大変だもんね。メディアさんのこと、好きなら好きって、早く告白しちゃえばいいのに」
あっけらかんとしたルアシのセリフに、ラグがにっこりと笑った時、ロビーの奥から、ユウの名を呼びながら駆けてくる少年の姿があった。
「リーダーぁ!!」
ため息をつきボーっとしたままのユウのかわりに、隣でシーダが手を振って返事を返す。
「よぉサミー、アミーは?」
サミーと呼ばれた、シーダよりひとつ年上の少年は、四人の前までくるとハァハァと大きく息をはき出した。
「アミーは?」
ぼんやりしていたユウが、一緒にいるはずのサミーの双子の片われ、アミーの姿がないのに気づいてサミーをしげしげと見た。
「あ!」
「何かあったのか?」
「どうしたの?」
サミーの驚き方に、ユウたちが慌てて聞き返す。
「忘れてきちゃった」
サミーが、あっけらかんと答える。
「………おまえ、反対じゃないのか?」
ユウはボソリと言った。
「おまえじゃなくて、アミーの方がおまえを忘れてどっか行ったんじゃないか?」
「あ、そーか、そーゆのもあったね」
サミーが両手をパチンと打ち鳴らして、納得したようにうなずく。
「ああ…」
ユウが頭をかかえると、かわりにラグが、サミー両手を見ながら言った。
「で、サミー。地図買ってきたの?」
「ううん。お金はアミーが持ってるよ」
「なーんだ、やっぱりアミーが地図買いに行ったってだけじゃねーか。焦って損したぜ」
シーダがロビーの椅子に片足を組んで座りながら、腕時計を見る。
「ね、リーダー、あたしとラグでアミー探して来ていい?」
ルアシがさっきまでのケンカなど無かったように、ラグの腕をとって甘えて見せる。
「ボクも、もう一回行ってくる」
サミーも左手をあげた。
なんだかな……こいつらは…と、ユウは内心思いつつも、暇を持て余している年下の仲間たちにうなずてみせる。
「行ってこい、行ってこい。迷うなよ」
「もち、大丈夫よ★」
ルアシとラグ、サミーが元気に走り去って行くのを見送った後、シーダが思い出したようにユウを見上げた。
「さっき税関出たあとで、もめてたけど何だったのさ?」
「たいしたことじゃ無いよ」
ユウも、シーダの隣の椅子に腰を降ろす。
「ただ、どこから来たとか、旅行の目的はとか、どこへ行くとか、やたらしつこかったことは確かだけどな……。あとは…」
「あとは?」
「サミーが『青い星!』って言ったとき、俺の顔になんかついてるっていうよーな変な顔して、言いがかりつけに来た人がいたんだよ。でもまぁ、すぐに入港手続きと俺のパスポート・チェックをした人があわてて来てくれて、ことなきを得たんだけどな」
「親父んとこの会社の商船を改造した船だから、盗難船かなんかと間違われたのかな。ふつーの旅客船みたいにめんどーな手続きもやらなかったし、お忍び旅行だからな」
シーダは今回の旅行の立案者でもあったことから、多少の責任を感じたのか、しばらく黙り込んだが…。
「やーめた、アホらし。すんだことはすんだことだぁ!」
両手を思いきり上げ、のびをしながらシーダは元気よく叫んだ。
「おまえなあ…」
ユウが呆れた顔をした。
☆ |
その頃アミーは、空港のロビーからそう離れていない所を歩いていた。
(サミーはどこへ行ったのかしら?)
そう思いながらも空港のフロントにある“サービス・ステーション”で、とりあえず目的の観光地図を売っている場所を訪ねる。
「地図はステーション街にて販売していますよ。場所などの詳細はこの案内書に書かれていますから、どうぞ、おもち帰りください」
「ありがとう」
ステーション街で地図を買い、さて帰ろうかとステーション街のウインドを何げなく眺めながら歩いていたにアミーの目に、ふと一件の店が止まった。
「ナイフ屋さん…か」
店のガラスケースには、各惑星生産の様々なナイフが飾られている。めったにお目にかかれそうにない珍しい種類のもありそうな雰囲気に、アミーは、思わず店内に入ってしまった。結局、何も買わずに店を出たものの、熱心に見入っていた分だけ時間が経つのは早かった。
(やっぱり今持ってるやつの方が数段いいみたい)
ふと手に持っている旅行カバンを見たあとで、アミーは何かを感じとろうとするように目を閉じた。
(このカバン、何気なく持ってきちゃったけど、何故かしら? 早く戻った方がいいかもしれない)
奇妙な予感にとらわれつつ、アミーはユウたちの待つロビーへと早足で向かった。
☆ |
「リーダー! アミーってばどこにもいないのぉ」
ルアシとラグが、ユウ達の所へ戻ってきた。
「あ・ら…、なによサミー早かったじゃない」
ルアシが先に戻っていたサミーを見て、不思議そうな顔をする。
「うん、探したけどわかんなかった」
「お前ら双子だろ? 片われがどっかにいるかぐらいわかんない?」
ユウがぼやくと、サミーあっさりとは首を横にふった。
「わかんない。アミーが何かに夢中になってたり、あんまり遠くへ行ってるときはわかんないよ。それにわかっても、『あ、いる!』って思うだけで、どこにいるかまではわかんない」
「情けない奴だなぁ。もう少し何とかしようという気はおきんのか?」
ユウが呆れたように大きなため息をつくと、ルアシが何か思いついたように両手をパチンとたたいた。「じゃ、アミー空港の外にいるのかしらぁ?」
「いるわけないだろ。馬鹿じゃねえの」
予想外のルアシの言葉に、シーダがここぞとばかりに笑い飛ばした。
「あんたは黙ってなさいよ」
ルアシににらまれて、言い返そうとシーダが口を開きかけた時。
「どうしてそう思うの?」
サミーが意外そーな顔で聞き返した。
「ほら、空港じゃ地図売ってないから外まで買いに出た、っていうのも考えられるじゃない」
「そーいうもんかなぁ…」
ユウが考えるのが面倒臭くなったように、大きなあくびをした。
「きっとそうよ。じゃあ、試しにあと五分待ったら街へ出てみましょうよ」
☆ |
その頃、アミーはロビーへ戻る通路の手前のレディス・ブティックの通りを足早に歩いていた。家族連れや恋人同士、ビジネスマンなどの旅行者が忙しそうに行き交っている。その中の一組とすれ違った時、アミーの足がぴたりと止まった。
(あ! 今のひょっとしたら…)
思うが早く、店の前でディスプレイを見ているふたり連れに近づいて行く。
ウインド越しに、中のディスプレイを熱心そうに見つめている金髪セミロングの女性と、つまらなさそうにタバコをふかしている黒髪長髪のふたり連れ。アミーからは後ろ姿しか見えなかったが、ふたりとも長身なので目をひくらしく、ステーション街の通行人達の静かな注目を集めている。
アミーは、そのふたりのうちの黒髪長髪の方の髪の毛を器用に1本持つと、くいっと引っぱった。
「痛っ…?」
髪を押さえながら、いぶかしげに振り向いた人物に、アミーはニッと笑いかけた。
「お……」
彼女の顔を見て驚いている黒髪の人物の様子に構わず、アミーはうれしそうに挨拶をした。
「お久しぶり」
「あ、ああ…」
面食らっている黒髪の様子に、金髪の女性がアミーの顔を見降ろしながら尋ねる。
「ねぇシアン、誰? この子?」
「アミー・ミズシマ」
シアンは冷静をとり戻そうというように、せき払いをひとつした。
「前にシアンが話してくれた?」
「ああ…」
シアンの短い返事に、金髪、ライト・ブルーの瞳がぱっと輝く。
「よろしく♪ あたしジョゼ、ジョゼラ・スゥよ。あなたのことは、シアンから聞いてるわ。こんなところで会えるなんて奇遇よね。一度会いたいなぁって思ってたの」
「よろしく、アミーです」
ジョゼと名乗った美しい金髪女性が、アミーの顔をのぞき込むような感じで握手をしているのを――黒髪の一見男か女かさだかでない――シアンがくわえタバコで眺めている。
「ふうーん、じゃあアミーちゃんはそのユウ君達と一緒に旅行中なの? あたしはシアンとよ★」
「しかも両方とも今この星へ着いたばかり…ってことか…」
シアンが表情を表さない瞳でそう言うと、アミーがうなずいた。
「ゆっくりと聞きたい話しもあるけど……、いまはリーダーなんか待たせてあるから……。そうね、宿泊予定のホテル教えてくれる? あとで電話するわ」
「わかった」
シアンは、アミーに渡されたメモ帳にホテルの名前と電話番号を書き込むと、渡した。
「明日にでも電話するわね、シアン」
「ああ…」
諦めたように口元に笑みをつくるシアンの横で、ジョゼが茶目っ気たっぷりに投げキッスをおくる。
「じゃ、その時にユウ君達も紹介してね♪」
「OK.ジョゼ。じゃあね、シアンいい男になったわね」
アミーはウインクひとつするとふたりの前から、駆けて行った。
☆ |
「来ないぜぇ…」
シーダが腕時計とユウを交互に見つめながら、何度目かの同じセリフを口にした。
「地図買いに行ってから、もう三十分も経ってる。いくらなんでも遅すぎるよ。本当にどうしたんだろう」
ラグも思案気に帽子をくるくると回しながら、窓の外の宇宙船を見ている。
「やっぱりアミーは外へ行ったのよ。ねえってば、リーダー」
ルアシは先程から、繰り返し自分の説を主張している。
ユウもさすがに困ったように宙を仰いだ。
「じゃ、念の為ルアシとラグは空港の周辺を。街なんかないだろうけど…、サミーは空港の出入口、俺とシーダはここで待つことにしよう、いいかな?」
「なんであたしとラグが、外回りなんかするのよぉ、リーダーずるぅい。楽してるぅ!」
「ルアシ、ルアシ」
ユウが騒ぎ出しそうなルアシをそばへ引き寄せ、何やら耳打ちをした。とたんにルアシの態度が、くるっと変わる。
「キァア♪ だからリーダーって大好き。じゃ行ってくるわ。ね、ラグ★」
「う…? うん」
ルアシとラグが手をつないで駆け出すのを、サミーとシーダが不思議そうに見ながら、ユウに聞いた。
「リーダー、何て言ったの?」
「答えは簡単。アミーを探しながらラグとデートしておいでって言っただけさ」
「あ、なーる!」
シーダがポンと手をうつ。
「じゃ、ボクは出入口に立ってるね」
サミーはよいしょとイスから飛び上がると、ルアシ達のあとを追うようにかけ出していった。
「やれやれ」
今度はユウが、ため息つきながら立ち上がった。
「リーダー、どこ行くんだよ?」
シーダがいぶかしげにユウを呼び止める。
「悪いけどシーダ、ちょっとそこにいてくれ」
「?」
「トイレ」
歩き出すユウに、シーダも横をついてくる。
「お前はそこにいろって!」
「オレもトイレだもんね。先に行くなんてズルいぞ」
「ズルいっていったって、荷物の番人がいなくなるじゃないか」
ユウが足をとめた。
「なら、コイン・ロッカーに入れとけばいいじゃないか」
「そーか、その手があったな」
ユウとシーダは引き返すと、手早くコイン・ロッカーへ荷物を入れ、一目散にトイレへと向かっていった。
☆ |
「あ…らま」
戻ってきたアミーは、地図を片手に先刻までユウ達がいたであろう場所にポツンと立っていた。
「四十分も過ぎてる」
(ナイフ屋がたたったかしら…ね…。あそこで時間をとられたみたい…。あたしとしたことが…)
アミーは右腕の時計を見ながら、ふとロビーから二階へつながる階段に目を向けた。
(二階か三階に喫茶店があったわね)
案内書の空港地図を見る。
(三階か…喫茶店でお茶していてくれればいいんだけど)
アミーは、買ってきた地図と案内書を素速く旅行かばんの中にしまい込むと、階段を上がりはじめた。
☆ |
そのユウとシーダは、三分と経たないうちに戻ってきたが……。
「よぉリーダー」
シーダが椅子に座りながらボソッと言う。
「まさかオレ達がトイレ行ってる間にアミーが来た…、なんてことないだろな…」
「あ…あははははは…。そ、そんなことはない…ないと思うけど…、そうだったらどうしよう」
「サミーでもおいときゃよかったかな」
「で、でも来たと言う確率は…」
「五分と五分だぜリーダー、来たか来ないかの差だけだもん」
「やっぱ…、サミーをおいとくべきだったろーか? どうして今頃気づくんだろ」
すると、空港の出口にいるはずの噂のサミーが、あわをくったように走ってきた。
「こんな時は、あいつは呼ばんでもくるなぁ…」
何の気なしに手を振っていたユウの手が、サミーの口から出たセリフに思わず止まった。
「ルアシとラグがバスに乗って行っちゃった!!」
「へ!?」
ユウとシーダ意味を理解出来ずに思わず顔を見合わせる。
「だから、ボクが出入口に立ってたら、バスがバス・ターミナルに入ってきたの。で、外まわってたラグとルアシがそれに乗って行っちゃったの!」
「行っちゃったのっ…て、おまえねぇ…。行き先見たか?」
「うん、《タオ・シティ》って」
「おいシーダ、空港から出てるバスっていうのは全部ノンスットップだったよな」
「うん、おまけにサービスだから無料!」
「おい! サミー、お前はフロントのところにあるサービスステーションで、自分と似た女の子を見たらタオ・シティへ俺達が行ったことを伝言してもらえ。夕方の四時にタオ・シティのターミナルに待ち合わせるって! 俺とシーダは早くロッカーから荷物を出すんだ」
「OK!」
サミーがフロントへ向かう。ユウとシーダは、ロッカー室からカバンをかつぎ出すと、空港の出入口でサミーと合流し、タオ・シティ行きのバスに乗り込んだ。
バスの中は到着してすぐの便の客ばかりだったようで、人でごった返していた。朝のラッシュ時もこの状態にくらべたらまだましな方だと、今も減らない日本の地下鉄の早朝ラッシュを思い浮かべて三人は唸った。
しかも荷物は各自で持っているものだから、人と荷物の山で、子供などは、ふたり用の座席に四、五人重なっており、座席の背もたれには網棚にのりきらないカバン類などが積まれ、バスの振動などがあると荷物は情け容赦なく人々の頭の上に落ちてくるのだ。
それを避ける為に網棚や、その他の荷物を両手をのばして大人たちは必死に支えている。
「リーダー、死んじゃうよぉ…」
「情けない声を出すな…。ところでアミーへの伝言は頼めたか?」
ギュウギュウづめになりながら、三人は出来るだけ小さな声でやりとりをした。
「うん、あの…ね。サービス・ステーションのお姉さんがアミーを見たんだって。アミー案内書をもらいに来たんだって…で、放送かけて呼び出して伝えてくれるっ…てっ!」
最後の「てっ!」は、上から落ちてきたバックが頭の上におちた為らしい。
「大丈夫かぁ?」
ユウはサミーの頭のバックを網棚にのせた。
「でも…俺達どーして気付かなかったんだろう…」
「何を?」
「最初っからアミーを放送で呼び出すことにさ」
ユウ達を乗せたバスは一路タオ・シティをめざしていた。
☆ |
一方、空港に一人取り残されたアミーは、放送で呼び出され、サービス・ステーションでサミーの伝言を受け取っていた。
「じゃ、たった今行ったんですか?」
「ええ、あなたと同じような服を着て同じような顔の男の子からよ」
「どうも御迷惑をおかけしました」
「えっ…いえ…ええ」
十二、三歳の少女の言うセリフとは思わなかったのか、サービス・ステーションの受付け嬢の方があわてておかしな返事をしてしまう。
「じゃ、私も行きます」
「そうね、今ならバスはすいてるわよ。前のバスはさっきついた便の乗客で満員だったようだけど」
「ありがとう」
アミーは受付け嬢の言葉どおり、五、六人しか乗っていないバスに楽々席を確保し、約一時間後、タオ・シティのターミナルに降り立っていた。
「まだ二時…か」
アミーは、突然空いてしまった時間をつぶすために市街の方へ足を向けた。初めての土地で、特にすることもない様子で一時間近く本屋などを覗いていたが、それにもあきると、表通りから少しはずれた小道を歩き出した。
「表通りよりもこーゆところに、いい店があったりするのよね」
しばらくして、アミーは路地の奥に下げられている、斧型の木板に目を止めた。看板には『バー・アックス』とだけ書かれている。
「バー…ね。いいか、あと一時間はここでつぶそう」 アミーは、シーダからもらった最新式の腕時計で時間を確かめると、ぶ厚い木のドアを押して中へ入って行った。
「いらっしゃい」
カウンターの中、真紅の髪と瞳を持ったマスターが振り向いた。
(3章に続く)
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